あらすじ
豊臣秀吉の九州征伐を目前にして秋月三十六万石の主・秋月種実(あきづきたねざね)※1は、敵情報偵察のために家臣の恵利内蔵助暢堯(えりくらのすけのぶたか)※2を似非の使者として秀吉のもとへ遣わします。暢堯は妻子に送られ安芸の秀吉陣屋へと旅立ちます。
暢堯は黒田官兵衛を通じて秀吉に謁見しますが、その大軍勢と士気旺盛な有様に、万に一つも勝ち目なしと判断して降伏を申し出るのです。秀吉は朝命に従うなら良しと、一振りの刀を与えて暢堯を帰します。兵力のあまりのかけ離れを目のあたりにした暢堯は、お家安泰のためには降伏のほか道はなしと、改めて心に決めたのでした。
古処山城※3に戻った暢堯は命を懸けて和睦の道を説きますが、主君をはじめ並み居る重臣は聞く耳を持たず「臆病者」と罵ります。かくて道極まった暢堯は、一命を捨てて主君を諫めんと、妻子とともに村はずれの大岩の上で自害をしたのです。しかし、その死をもっての忠言もむなしく秀吉に逆らった種実は秋月36万石を召し上げられ、日向財部※43万石に命をつなぐこととなりました。秋月を去ることとなった種実は、最後に「内蔵助、許せよ」とつぶやいて日向財部へと旅立ったのでした。
解 説
この演目は実話であり、秋月には今でも腹切岩が残っています。これをもとに佐藤尚山が創作した舞台劇を、平成五年には姉妹都市の宮崎県高鍋町にて上演いたしました。その折にはなんと「恵利内蔵助の子孫でございます」と名乗られる方が楽屋を訪ねてみえました。時代を飛び越えた巡り会いに一同驚愕したものです。