あらすじ
徳川三代将軍家光の京都入りにお供をしてきた江戸の旗本、菊池半九郎は、旅のつれづれに祇園を訪れ、お茶屋の遊女お染に出逢います。お染は17歳、祇園に出たばかりで半九郎が初めての客でした。半九郎はそんなお染の純情さに惹かれて馴染を重ねるうちに江戸へ帰る日も近まって来ます。半九郎はそんなお染の純真さに、家宝の刀を売ってお染を請け出し親元へ帰してやろうと決心します。
江戸へ帰る直前のある日、朋輩※1である坂田市之助の弟、源三郎と酒の席での口論となり「江戸侍の面汚し、恥知らず」とののしられついに酒の酔いも手伝って、四条河原※2で果し合いとなり、ついに源三郎を討ち果たしてしまいます。お上への申し訳に切腹しようとする半九郎ですが、お染に止められ、どうせ死ぬなら私も一緒にと口説かれて、一刻ほど前に娘の無事を喜んで帰っていった父、与兵衛から届けられた晴着を着て手に手を取って鳥辺山へ死出の旅へ出かけるのです。
解 説
大正4年9月、岡本綺堂が歌舞伎仕立に書き下ろし、二代目市川左團次が演じたもので、明治末期から大正末期にかけて上演された新歌舞伎の一つであります。
鳥辺山心中は殺伐とした江戸の武士が、若い純情な女のために家宝の刀まで売ろうとするロマン的な味わいを持っています。
いかに武士の面目とは言え、悲しい運命をたどる半九郎とお染の出逢い。それに絡む市之助とお花、それに源三郎、娘の死が待っていることも知らず四条河原を変える与兵衛の姿も、また哀れである。